サロン百花2019冬「美容対談」 木戸修先生 x 大畑綾子(前編)
綾子:本日は木戸先生にお越し頂きました。よろしくお願い致します。
木戸先生(以下:木戸): よろしくお願い致します。
綾子:まず、木戸先生は今までどんなお仕事をされていたのですか。
木戸:大学卒業後に大手の化粧品メーカーに入社しました。3年目にマネージャーになりました。その会社は目標やノルマがあったのですがマネージャーになってからは会社目標は全て達成しました。
綾子:No.1ですか?
木戸:No.1っていいますか、会社の目標は全部達成できました。そのおかげでハワイとか海外旅行に、のべ5回くらいは行かさせていただきました。
綾子:とても素晴らしい!3年でマネージャーですか。
木戸:そうです、マネージャーになったのが同期でかなり早い方でした。大卒の同期は250名くらいましたので、よく覚えています。
綾子:本当にすごいですね。その後はどうされたのですか?
木戸:大手化粧品メーカーを3年10カ月で退職した後に船井総研という経営コンサルタント会社に転職しました。化粧品メーカーのマネージャー時代に商品が思った以上に売れなかったので、どうやったら売れるのかということを知りたくて、経営コンサルタント会社を選びました。数社受かりましたが、面接の時に一番インパクトがあった船井総研に決めました。
綾子:ちなみにその面接のインパクトってどんなことだったのですか?
木戸:質問内容が結構ユニークな事が多かったので、印象が深かったですよね。
綾子:そうですか。木戸さんの中で何か手ごたえのようなものはありましたか?
木戸:直観的にここは自分に合っているな!と思いました。それにこれも直観なのですが、この会社は伸びるんじゃないかなと。
綾子:直感で感じたものがあったのですね。
木戸:入社当時、船井総研という会社はまだ小さくて、在籍している間に一部上場をして社員も1000人くらいまで増えていました。
綾子:すごいですね。船井総研には何年位いらしたのですか?
木戸:あんまり言うと年齢が分かるので(笑)。十数年くらいですね。
綾子:十数年。そこではどんなお仕事をされていたのですか。
木戸:経営コンサルタントです。 中小企業の売上や業績の拡大、利益の拡大に向けたマーケティング的なアドバイスです。特に集客とかマネージメントとかを研修などでご支援させて頂いていました。
綾子:そうですか。お聞きした話では美容関係はもちろんなのですが、美容関係ではないかなり意外な業界でも研修されていたとか?
木戸:はい、でも内緒です(笑)。
綾子:内緒ですね。前職が化粧品メーカーでいらしたので、やはり美容関係の業界を専門にされていたのでしょうか。具体的にはどのような支援をされていたのですか?
木戸:細かいことはあまり覚えてないですけれど、上場企業も含め500社以上はお手伝いをさせていただいたと思います。
綾子:500社ですか!?今までのご経験からエステ業界に来たっていうのは、どういう経緯だったのですか?
木戸:会社を辞めてからもコンサルタントをしたいとか強く思っていなかったのですが、その当時からエステ王子と仲良くさせていただいていまして、彼から一人サロンのオーナー様はサロンの収益性が低くて困っているとか、夢を売っているのに夢を見られない仕事になっていると聞いていました。そんな業界を変えていきたいので力を貸してほしいと。このことを二人でずっと話し、活動していたのですが、さすがに話だけで終わらせるのも申し訳ないと思い、勉強会をはじめたのがきっかけの一つです。また、化粧品メーカーの会長や有名企業の社長から、退職したら必ずうちに来てくれとか、うちの社長になってくれとお誘いの言葉をたくさんいただいていました。そんな時にある方から僕らに教えてくれたことをもう少し世の中に出してくださいよと、仰っていただいたので、もう少しやってみようかなと思いながら今日に至っています。周りの人からの声がきっかけで始めて、少し評価を頂いているのでありがたいかなと思います。
綾子:今のエステティックサロンの現状で、良い面と悪い面とあると思うのですがどんな所だと思いますか。
木戸:まず良い面は元気で明るく夢を持って美容に対して真摯に取り組んでいらっしゃるエステティシャンの方たちです。本当にエネルギーをもらえる方が多いので、エステティシャン個人個人の方に対しては、尊敬と敬意と魅力を感じますよね。課題として思うことは、やっぱりこの業界で本当に幸せになっている人たちがどのくらいいるのかと。ビジネスとしてこれから5年後10年後の夢やビジョンを本当に心から語れる人がどのくらいいるのかを考えた時に、この業界の仕組みやビジネスモデル、スキーム自体が実際には確立していない事や、また業界がすごく未熟な状態であることからマーケティングやマーチャンダイジング、コンサルティングどの視点からみても、本格的にビジネスモデルを構築しなければならないと思っています。この業界の方は基本的に集客と販売する仕組みについて弱いというか、まだちゃんと捉えていないと思います。更に付け足すと集客や販売について勉強する場所や機会やそれに情報が少なすぎるのも現状です。特にホットペッパービューティー、ルクサ、フェイスブック広告、インスタ広告、MEO、リマケ、ホームページからのリスティングのOPA、チラシ、このあたりは皆さんあまり知らなさすぎます。
綾子:そうですよね。
木戸:僕はこのことについてある意味異常さを感じています。真面目な話で。
綾子:そうですか。
木戸:とても異常だと思っていますよ。3500億のマーケットがこの10年間くらい全く伸びもせず凹みもせず、衰退しているというのはあり得ないと思っています。この業界は非常に課題が多いので、何とかしないといけないというのをものすごく感じますね。
綾子:なるほど。確かに私自身もそうですが、「お客様を喜ばせたい!」という気持ちだけで開業してしまい、想いはすごくあっても中々その仕組みやうまく行く方法を勉強する所がなかったし、教えてくれる所ありませんでした。新規でオープンしても、残念ながら閉めてしまう店もあるし、何かのきっかけでそれを学べた人は伸びているという二極化になっているのかなと非常に感じています。
綾子:木戸さんが思う繁盛サロンの定義とは何でしょうか。
木戸:一つには当然のことですが、会社がちゃんとした理念とかビジョンを持っていることです。その理念やビジョンが具体的にマーケットとかターゲットに対して向けられているかという事。また集客においては、お客様を本当の意味で信者客にできているか、VIP客を喜ばせられるようなサービスやコミュニケーション、それに対応や接し方などをきちんと構築されているかということです。これらのことや本当の意味で憧れられるサロンさんになっていきますし、ステータスがブランディングとして出来ている所は繁盛サロンになっています。
綾子:ありがとうございます。では、どうやったらなれますかね?サロンを経営されている皆さんはそれを聞きたいと思っていると思うんですよね。
木戸:この業界は職人的な技術主体で、技を覚えると技術力とか施術力が上がる=サロンとして成功する、というイメージが強いです。エステ業界はお客様メインの商売なので、技術が一番ではなくて実際にはお客様が一番でなければならないと思っています。お客様の目線や立場になってみた時にサロンの付加価値や魅力を感じとれるか、サロンに来て頂けるための動機付けになるような集客をしているのか、また地域の商圏内において一番店になるための何をすべきかということが分かっていることが大切です。エステは地域ビジネスです。WEBの時代の今、例えばGoogle マイビジネスは知っているけどMEOで一番になる事の大切さを理解されていない方も多いのではないでしょうか。今の時代は何でも検索すれば情報入手することができますので、悩みとか、症状とか目的とか気になることは検索されています。気軽に何でも検索できる時代だからこそ、何がお客様に刺さるのか?自サロンの認知力、知名度を上げるには具体的にどうすればいいか?など強化していく必要があります。また、ターゲットになるお客様自身のライフスタイルとライフサイクルには、どのようなキャンペーンやイベント、仕組みがお客様にとって必要であるのか。お客様にサロンの魅力を感じて頂ける、お越しいただけるような仕掛けというかプロデュースが、サロンの経営上出来ていらっしゃらない所は力を入れていくことがすごく重要です。繁盛店になれる、地域一番店になれる、商圏において一番お客様に支持されるためには、不可欠です。
綾子:確かにエステサロンあるあるというか、私もそうだったので言えることですけれど、自分がやりたいことを打ち出し過ぎているというか。お客様目線だと思っていても、お客様目線でなく身に着けた技術を売りたいから、このコースでどうですか?と出していたり。でもそういうことではなく、お客様の自然なニーズを勉強しなくてはいけないというところでしょうか。
木戸:お客様が知りたがっている情報というのが一番重要であって、知りたがっている情報の中でサロンオーナー個人の強みになるやりたいことを打ち出す。
綾子:やりたい事を打ち出すこと。
木戸:オーナーにはやりたい事と、出来る事と、やらないといけない事とあるんですよね。やらないといけない事というのは、時流に則ってお客様のニーズが変わってきているので、そこに対してサロンがどのようにお客様のニーズから満足度や期待値を超えるようなサービス、施術、満足感を差し上げることができるか、提供できるようになるかという事が重要なのです。出来る事とは実はやりたい事とはまた別なんですよね。出来る事の数が増えると、やりたい事が出来るようになるので、やりたい事、出来る事、やらないといけない事を整理して課題意識を正しく持ち、経営として強化する問題を知ることだと思うのです。何を強化したらうちのサロンはそのレベルに達するのか?という事は、自分で課題を作らないとサロンとしての成長とか進化はないのです。ただ単にサロンを経営しています、私はこれがやりたいです、それだけではサロンは伸びるようなことはないのですよ。
綾子:確かにやりたいことが優先的になってしまって、やらないといけないこととか、それをやることによって出来ることが増えたっていう視点はちょっと少なかったかもしれません。もう一つお伺いしたかったのは、地域についてです。
木戸:小さいサロンさんでよくあることなのですが、自分の枠組みにお客様を合わせようとするのです。施術とかメニューとか、要は自分の考え方に合わせてしまう。そのやり方は大手に特化したやり方で個人経営されている方は、相手の枠組みに自分を合わせないといけないのということに気がついていらっしゃらないのです。その視点が弱すぎますよね。相手の枠組みに初めて視点を合わせた時に、お客様の客数を拾えるので、初めから自分の枠組みの中にお客様がはまる人を探しているのでは、それはお客様自身がリピートしづらいですよね。
綾子:なるほど、経営規模によって違うという事ですね。この視点もありませんでした。私もそうでしたが、サロンの中にいると業者さんとお客様だけの話を聞いていて、中々気づきがないと思います。
木戸:まず大切なのは情報のプラットフォーム。今クラウド化というのが世の中進んでいます。例えばサロンが繁盛するために「必要な情報があるプラットフォームの場所に行く」という事が分かってることが必要です。行動がすべてなので、分かっていないとどうしても自分だけの自己本位な情報に振り回される可能性がすごく高いのです。今の時代はお客様も情報がないと不安ですし、積極的に情報を取りに行く、情報化社会のすごいスピードとすごい量の中からどんな情報を捨てて、どんな情報を取捨するということを正しく理解していないと、誤った情報をお客様にたくさん伝えてしまうことになりかねないです。美容の専門家としてお客様に綺麗になって頂くために必要な仕事として、今スピードのある情報社会の中でお客様の役に立つ情報を、どれだけ情報のプラットフォームで取れるかが大切になってきています。研修会や研究会に参加するということは、そういう影響力を持った師とか友達を作ることなど、本当はアナログ的には大事な局面なのです。そのあたりの正しい感性をエステティシャンとして、オーナーとして、学んでいく必要性が急務になっている時代だと思います。
綾子:確かにそうですね。インターネットの時代になって、情報が溢れかえっています。何が正しい情報なのか?何が捨てなきゃいけない情報なのかの判断力が必要です。またスピード化が更に進み、一、二年前はこれで集客出来ていたと言ってもこの先は全然違いますよね。なるほど仰る通りです。
木戸:だからポテンシャルだけが高くても駄目なのですよ。エステオーナーは「ポテンシャルが高いといける!」と勘違いしていらっしゃる方も多いので、改めて言います。そうではないです!エステサロンは時代性に合わせた環境適応ビジネスなんですよ。環境に合わせたビジネスの中で、情報に対しての感性を磨くスタンスとか、センスを上げていかないと、サロンとしてお客様に対して役に立つ機能というのは、自分の中でポテンシャルが高ければいいと思っているだけではダメだという事に本当に気が付かないと駄目ですよね。そこに気付けない人は時代と共に取り残されます。
綾子:危険。危険。そうですね。
木戸:かなり危険だと思います。でも市場ではすごく起こるので、他の業界よりも凹むのが早いんですよ。もう一つは、間違いなく利益率です。痩身の利益率は19%くらいじゃないですか。物販を取り入れたエステサロンが今は主流で、38%くらいの利益率になるわけですよね。ということはお客様自身がトータルビューティをサロンで受けられているのに、専門家から化粧品を選ばない。お肌のプロであるエステティシャンからでなくドラックストアで化粧品を買うんですよ。化粧品の価格はそんなに大差ない値段なのに。
綾子:確かに。
木戸:お肌のプロの言う事は聞かないみたいな感じですよね。よく考えてみるとおかしいでしょ?エステサロンのオーナーは本当の意味でビジネスモデルを勘違いされすぎていて、自分が好きな施術をやって、お客さんに嫌われないように物販はしないみたいな、そんな自分の好きなことしかやらないのであれば、繁盛サロンとはほど遠い、趣味の店ですよね。
綾子:趣味の店。自分の好きなことしかしないというのは、お客様目線ではない部分もありますね。今、集客では強いのは痩身ですかね?
木戸:そうですね。メニュー的には痩身が圧倒的に強いです。フェイシャルよりも痩身で、フェイシャルで来るとしたら本当に毛穴か小顔だけなんですよ。あとは季節美容メニューか。毛穴と小顔をどう専門化させて取るかだけなんですけど、痩身はやっぱり部分痩せとか、悩み別や目的別の痩身とか、季節的に痩身のマーケットは団塊の世代ジュニアがメインマーケットなので強いですよね。やっぱり人口が一番多いですよね。
綾子:やはりスピードが速いですよね。ちょっと前までは脱毛で集客してなんていうことを言っていましたけど。
木戸:化粧品では洗顔です。昔クレンジング、洗顔になって、この化粧品メーカーなら、〇〇とかありました。有名な泡立てる洗顔があって、洗顔で切り返してブランドチェンジするというのが基本でしたが、エステの方は脱毛を中心にやるというのがありましたが、今は痩身であり、美容液ですね。
綾子:なるほどですね。時代が全て変わっていますね。
木戸:そうなんです。そういうことさえも分からない方は、ちょっと厳しいですね。
綾子:分からない人多いと思いますよ。
木戸:実際のところは多いと感じています。とてもびっくりします。
綾子:この現状を冷静に見ると、「学ぶ」という積極的な姿勢を持たないといけませんよね、経営者として、美容家として。というか、仕事としてやるには。
木戸:そうですね。仕事としてやる気がなければ、売上も利益も伸びないので。
綾子:そういうことですよね。やはり売上が伸びて利益がなければ、結局自分のやりたいことはできないという事ですよね。
木戸:できないです。それに自分の趣味でやっているだけでは、付加価値が伝わらず、お客様自身を幸せにできないですよ。ファンがいないですから。声を大にして言いたいのは、仕事は「熱」と「距離感」でするもので、その原則が本当に分かっていないとこの業界では成功しにくいです。例えば恋愛の熱とかギャンブルの熱とか、やっぱり熱って急速な角度でグンと上がってファンになるんですよね。ジャニーズにしても三代目にしてもビッグバンにしても。やっぱり「熱」なのですよ。熱でファンを集めて、特に熱狂的なファンがいつも買ってくださるんです。そういうVIP客を作るのです。もう一つは集客商品とフロントエンドバックエンド商品、収益商品があること。この原則は大事ですよね。集客商品といわれる普通の提示メニューと、収益商品というファンだからこそ付加価値を出して、そのプラチナ的なメニューというものがお客様に受けられるようなサロン作りをしていかないといけないのです。そのためにはモデルを作れないと中々うまくいかないです。一人年間100万くらいのお客様を10人とか、最低でも7、8人とか、10人以上作れるということが今のサロンの繁盛店の条件ですよね。
綾子:なるほど。例えばスーパーのチラシで「卵10円」とか目玉商品で来店を促し、来店したら利益率の高い商品も買っていただくと。そういうビジネスモデルがエステサロンでは、まだ出来上がってないということでしょうか。
木戸:お試しをしないと。お試し商品というものの作り方がうまくないと。まずはサロンを知っていただいてサロンの価値を何となく理解してくださるような、きっかけ商品とかアプローチ商品というものが存在しないと、サロンとしては認知活動になかなか繋がらないのですよ。リマーケティングというのもは僕からするとウェブ看板なのですが、リマーケティング、リターゲティングで、看板を出しているんですよね。
綾子:繰り返し、そういうことですよね。
木戸:一部のサロンでは、例えば他のサロンに行ってマッサージが弱もみで嫌だったとか、結果が出なかったならうちに切り替えたら?ということをやっているところもあります。割引したりとかするんですよ。看板でリマーケティングでやってるんですよね。
綾子:乗り換えですね、美容クリニックとかだとありますよね。
木戸:学習塾もそうですよ。乗り換え割引。学習塾は結構多くて。4月に生徒を募集して8月まで行って、夏期特別講習は夏期特別学習方式は安いとかじゃなくて、要は乗り換えなんですよ。今まで通っていた塾はちょっと難しいなと思ったら、乗り換え割みたいなのが結構多いですね。それでリマーケティングとか出すと当たりやすいですね。
綾子:現状の不満をちょっとつついてから、うちだったら解決できるよと。
木戸:うちをまだ試してないでしょ、それで決めないでというですね。業界とか、そのメニューとか。そういうのではないからということを伝えるのです。
綾子:エステサロンで言うとお試し商品というか、それが集客のやり方っていうような形なんですか。
木戸:集客で必要なことの一つだということです。具体的にその地区で一番何が当たっているのか?どんな客層に対して何が響いて何が刺さっているのか?ということがすごく重要なのです。その辺りをリサーチもしていないのに、自分の出したいメニューをホットペッパービューティーに出して、機械の名前も施術の名前も知らないし、知らない所で習ったお客様が名前を知らない施術をしようとしても結果は誰も来ない…みたいな。
~次号へつづく~